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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)248号 判決

東京都立川市錦町二丁目九番二六号

原告

吉澤京夫

右同所

吉澤志ん子

右原告ら訴訟代理人弁護士

和田良一

東京都立川市高松町二丁目二六番一二号

被告

立川税務署長 飯田廣行

右指定代理人

矢澤敬幸

高野博

小田切浩

内野茂

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告が平成四年一月二八日付けで原告らの平成二年八月二六日相続開始に係る相続税についてした各過少申告加算税賦課決定(ただし、原告吉澤京夫に係る賦課決定については、平成五年四月一六日付け及び平成六年一〇月一一日付け各過少申告加算税変更決定により、原告吉澤志ん子に係る賦課決定については、平成五年四月一六日付け過少申告加算税変更決定により、それぞれ減額された後のもの)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが、相続開始の時において所有権の帰属について係争中の不動産を課税財産に含めないで相続税の申告をしたが、被告からしょうようされて、右不動産を課税財産に含めて修正申告をしたところ、被告から、過少申告加算税賦課決定を受けたため、右不動産を申告しなかったことには正当な理由があること、右修正申告は更正があるべきことを予知してされたものではないことなどを理由として、右賦課決定の取消しを求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実等(なお、証拠により認定した事実は、適宜、各項末尾に書証を掲記する。)

1  吉澤久(以下「被相続人」という。)は、平成二年八月二六日に死亡した。

被相続人の法定相続人は、被相続人の長男である吉澤幹夫(以下「幹夫」という。)、被相続人の三男である吉澤和夫(以下「和夫」という。)、被相続人の四男である原告吉澤京夫(以下「原告京夫」という。)、原告京夫の妻であり、被相続人の養子である原告吉澤志ん子(以下「原告志ん子」という。)及び原告らの長女であり、被相続人の養子である吉澤京子である。

2  被相続人は、平成元年九月二二日、公正証書により、原告京夫及び和夫に対し、別紙一物件目録1及び2記載の各土地並びに同目録3記載の建物(以下、合わせて「本件不動産」という。)を持分各二分の一として相続される旨の遺言をした。(乙一号証)

3  本件不動産について、平成元年一二月四日、被相続人から幹夫が代表取締役である吉沢企業株式会社(以下「吉沢企業」という。)に対し、同日付け売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)がされた。(乙二号証ないし四号証)

4  被相続人は、平成二年一月二六日、自筆証書により、本件不動産を原告京夫に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

また、被相続人は、東京地方裁判所に対し、同年二月二日、吉沢企業を被告として、本件所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。(甲八号証の一、乙五号証、六号証)

5  原告京夫は、被相続人の死亡後、別件訴訟を承継し、平成三年三月二九日、その請求を認容する旨の判決を受けた。

これに対し、吉沢企業は、東京高等裁判所に控訴をしたところ、平成四年一一月二日、原告京夫と吉沢企業との間で和解が成立し、本件不動産について、平成四年一二月八日、錯誤を原因とする本件所有権移転登記の抹消登記手続がされるとともに、被相続人から原告京夫に対し、相続を原因とする所有権移転登記がされた。(甲七号証、一〇号証の四、乙二号証ないし四号証、八号証)

6  原告らは、被告に対し、平成三年二月二六日、被相続人の相続開始に係る相続税の申告(以下「当初申告」という。)をし、同年一二月二〇日、修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。その後の被告の原告らに対する過少申告加算税賦課決定(以下、それぞれ「本件賦課決定」といい、合わせて「本件各賦課決定」という。)及び過少申告加算税変更決定、原告らの不服申立て等の課税の経緯は、別紙二記載のとおりである。

二  本件各賦課決定の根拠及び適法性についての被告の主張

1  原告京夫に係る本件賦課決定について

原告京夫が納付すべき過少申告加算税は、国税通則法(以下「通則法」という。)六五条一項に基づき、本件修正申告により原告京夫が新たに納付すべきこととなった税額一億二八八八万円(ただし、平成五年四月一六日付け更正により減額された後のもので、同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一二八八万八〇〇〇円と、同法六五条二項に基づき、右新たに納付すべき税額のうち期限内申告税額二八七九万三〇〇円を超える部分に相当する税額一億九万円(ただし、同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額五〇〇万四五〇〇円との合計額一七八九万二五〇〇円となるところ、原告京夫に係る本件賦課決定における納付すべき過少申告加算税額(ただし、平成五年四月一六日付け及び平成六年一〇月一一日付け各過少申告加算税変更決定により減額された後のもの)は、右金額と同額であるから、右賦課決定は適法である。

2  原告志ん子に係る本件賦課決定について

原告志ん子が納付すべき過少申告加算税額は、通則法六五条一項に基づき、本件修正申告により原告志ん子が新たに納付すべきこととなった税額一五八万円(ただし、平成五年四月一六日付け更正により減額された後のもので、同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一五万八〇〇〇円となるところ、原告志ん子に係る本件賦課決定における納付すべき過少申告加算税額(ただし、平成五年四月一六日付け過少申告加算税変更決定により減額された後のもの)は、右金額と同額であるから、右賦課決定は適法である。

三  争点

本件において、本件各賦課決定の基礎となる相続税の課税価格、相続税額及び本件修正申告により原告らが新たに納付すべきこととなった税額については、いずれも当事者間に争いがない。

本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。

1  本件不動産は、相続税法二条一項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当するか否か。

(一) 被告の主張

相続税法二条一項にいう「取得」とは、取得の効力について争いのないこと又は取得が有効であることが判決等により確定していることまでを要するものではなく、一応の取得で足りると解すべきであり、相続人又は受遺者は、その所有権の帰属について係争中の財産を取得した場合であっても、当該財産を相続税の課税財産に含めて申告しなければならないというべきである。仮に、判決等により当該財産の取得が無効であることが確定したときには、納税者は、通則法二三条二項により更正の請求ができるのであるから、右のように解しても、納税者に不当な要求をすることにはならない。

本件不動産は、相続開始の時において、その所有権の帰属について別件訴訟で係争中であったが、原告京夫は、本件所有権移転登記は被相続人に無断でなされた無効なものであり、真実の所有者は被相続人又はその承継人であると主張していたのであるから、登記上の名義はともかく、本件不動産は、実質的には被相続人の遺産であり、原告京夫は、本件遺言により、被相続人の死亡と同時に本件不動産を取得したものというべきである。

したがって、本件不動産は、相続税法二条一項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当し、原告らは、これを相続税の課税財産に含めて申告しなければならなかったものというべきである。

(二) 原告らの主張

当該財産が相続税法二条一項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当するか否かは、その所有権の帰属についての争いの内容、当該財産の現況などを勘案して客観的に判断されるべきであり、被相続人が当該財産を自己の所有物であると主張し、相続人がその主張を承継したことをもって、直ちに、当該財産が「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当するとみるのは不当である。

原告京夫と吉沢企業は、原告らが当初申告をした平成三年二月二六日当時、本件不動産の所有権の帰属について別件訴訟で係争中であり、吉沢企業が本件不動産を排他的に支配し、原告らがこれを使用収益なし得る状況にはなかったものである。

したがって、本件不動産は、当初申告の時においては、同項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」には該当しなかったものであり、原告らには、これを相続税の課税財産に含めて申告すべき義務はなかったものというべきである。

2  原告らには、通則法六五条四項にいう「正当な理由」が認められるか否か。

(一) 被告の主張

通則法六五条四項にいう「正当な理由」とは、たとえば、税法の解釈に関して当初公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし又は更正を受けた場合、災害又は盗難に関し当初損失とすることを相当としたものがその後予期しなかった保険金等の支払や盗難品の返還を受けたため修正申告をし又は更正を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告が、その後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものであって、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに当たらないというべきである。

そうすると、本件において、右のような事情は何ら存在しないから、原告らには、同項にいう「正当な理由」が認められない。

(二) 原告らの主張

本件不動産の所有権の帰属については、相続開始の時において、別件訴訟で争われており、また、幹夫及び和夫は、本件遺言は無効であり、仮に、これが有効であるとすれば、遺留分減殺請求権を行使するとの主張をしていたものである。

原告らは、右のように混沌とした状態の中で、当初申告をしたのであるから、当該申告は、真にやむを得ない理由によるものというべきであり、原告らに過少申告加算税を賦課するのは不当で酷になるというべきである。

したがって、原告らには、通則法六五条四項にいう「正当な理由」が認められる。

3  本件修正申告は、通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。

(一) 被告の主張

被告は、原告らの相続税についての調査をし、それに基づき修正申告のしょうようをしたものであるから、本件修正申告は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後にされたものというべきである。

したがって、本件修正申告は、通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。

(二) 原告らの主張

被告所部係官が原告らの居宅を訪問して質問をしたことは、調査には当たらないというべきである。仮に、これが調査に当たるとすれば、右調査は、税理士でない者を立ち会わせた違法な調査ということになる。

また、これが調査に当たるとしても、本件修正申告は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後にされたものとはいえない。このことは、修正申告のしょうように応じなかった幹夫及び和夫に対しては、平成五年四月一六日の更正の通知等まで、更正や過少申告加算税賦課決定がされなかったことからも明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件不動産は、相続税法二条一項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当するか否か。)について

1  前記第二、一の当事者間に争いのない事実等に加え、甲八号証の一、三、五及び弁論の全趣旨によれば、被相続人は、本件不動産を原告に相続させる旨の本件遺言をしたこと、被相続人は、別件訴訟を提起し、自己が所有する本件不動産を吉沢企業に対して売却した事実はなく、幹夫が、無断で、不正に入手した印鑑証明書及び偽造した委任状を用いて本件不動産を売却し、本件所有権移転登記をしたものである旨を主張していたこと、原告京夫は、被相続人の死後、別件訴訟を承継し、本件不動産の真実の所有者は被相続人であり、原告京夫がそれを本件遺言により取得した旨を主張し、原告志ん子も同様の認識を有していたこと、原告京夫と吉沢企業との間で、平成四年一一月二日、別件訴訟の控訴審における和解が成立し、本件不動産について、同年一二月八日、本件所有権移転登記が抹消されるとともに、被相続人から原告京夫に対する所有権移転登記がされたことが認められる。

2  ところで、相続税法二条一項は、相続税の課税財産の範囲について、「相続又は遺贈に因り取得した財産」と規定しているところ、右の文言に照らせば、相続税債権の成立要件としては、納税者において、相続等の所定の理由によって課税財産を取得することが必要であり、かつ、それをもって足りるのであって、右取得の効力について、他と争いのないこと、あるいは取得の有効であることが判決等をもって確定していることまでも必要とするものではないと解すべきである。

そうすると、前記1で認定した事実及び前記第二、一の当事者間に争いのない事実等に照らせば、本件不動産については、相続開始の時において、その所有権の帰属をめぐって係争中ではあったものの、実体的には、原告京夫が本件遺言によりこれを取得したものと認めることができるから、本件不動産は、同項にいう「相続又は遺言に因り取得した財産」に該当するものと解すべきであり、これに反する原告らの主張は採用することができない。

なお、納税申告書を提出した者は、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決や和解により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときには、その確定した日の翌日から起算して二月以内に、税務署長に対して更正の請求をすることができる(通則法二三条二項)ことにかんがみると、相続税債権の成立要件に関し、右のように解したとしても、納税者に難きを強いるものではないというべきである。

二  争点2(原告らには、通則法六五条四項にいう「正当な理由」があるか否か。)について

1  通則法六五条一項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき、その納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を賦課する旨を定めている。右の過少申告加算税は、申告納税方式による国税において、納税者の申告が納税義務を確定させるために重要な意義を有するものであることにかんがみ、申告に係る納付すべき税額が過少であった場合に、当初から適法に申告、納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正することにより、申告納税制度の信用を維持し、もって適正な期限内申告の実現を図ろうとするものであると解される。

そして、同条四項は、修正申告又は更正に基づき新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分につき過少申告加算税を賦課しない旨を定めているが、右の過少申告加算税の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な理由」とは、たとえば、〈1〉税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたことに伴い、修正申告をし又は更正を受けるに至った場合、〈2〉災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払、盗難品の返還等を受けたため、修正申告をし又は更正を受けるに至った場合のように、申告当時適法とみられた申告がその後の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となり、申告した税額に不足が生じたごとく、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものであって、単に、納税者に税法の不知や法令解釈の誤解がある場合は、これに当たらないと解するのが相当である。

2  これを本件についてみると、前記一のとおり、本件不動産は、相続税法二条一項にいう「相続又は遺贈に因り取得した財産」に該当するものと認められるから、原告らはこれを申告すべきであったところ、たとえ、原告らが、本件不動産は、所有権の帰属について別件訴訟で係争中であるから、それを申告すべき義務を負わないものと誤解したとしても、そのような事情は、原告らが法令解釈を誤解したことによるものにすぎず、右事情をもって通則法六五条四項にいう「正当な理由」に当たるということはできないというべきである。

したがって、原告らには、同項にいう「正当な理由」があるということはできず、この点に関する原告らの主張は失当である。

三  争点3(本件修正申告は、通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

1  通則法六五条五項は、修正申告書の提出があった場合において、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、過少申告加算税を賦課しない旨を定めているところ、同項は、自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととすることにより、納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものであると解することができる。

右のような趣旨に照らすと、同項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務署員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が不適正であることを発見するに足りるか又はその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行して先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意して修正申告書を提出したものでないことをいうものと解すべきである。

2  これを本件についてみると、証拠(甲一九号証及び乙九号証)によれば、原告らが本件修正申告をした経緯について、次の事実が認められる。

被告所部係官田中譲(以下「田中係官」という。)は、平成三年九月ころ、統括国税調査官溝越信行(以下「溝越統括官」という。)から、被相続人の相続税についての調査をするよう命じられた。

田中係官が、原告らの税務代理人である村木税理士に対し、同年一〇月四日、原告らの居宅において相続税の調査を行いたい旨を電話で伝えたところ、同年一一月一日、同税理士事務所の職員である宅野ミツ子(以下「宅野事務員」という。)から、調査日を同年一一月五日にして欲しいとの連絡があった。

そこで、溝越統括官及び田中係官は、同年一一月五日、調査のために原告らの居宅を訪れ、宅野事務員の立会いの下で原告京夫に対して質問調査をし、本件不動産に係る別件訴訟の経過について説明を受け、本件不動産を相続税の課税財産に含めて修正申告をしてもらう必要があると考えていることを話した。

溝越統括官及び田中係官は、同年一一月二七日、立川税務署に来署した宅野事務員に対し、右調査結果を伝えるとともに、本件不動産を相続税の課税財産に含めて修正申告をするようしょうようした。

宅野事務員と原告京夫は、同年一二月二〇日、同署に来署し、被告のしょうように応じて、原告らの相続税について修正申告書を提出した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右認定の事実によれば、被告所部職員は、原告らの当初申告について調査の必要を認めて、原告らの居宅において実地調査をし、その申告内容が不適正であることを指摘し、修正申告をするようしょうようしたところ、原告らは、右しょうように応じて本件修正申告をしたことが認められる。

そうすると、仮に、原告らが修正申告をしなければ、被告が更正をするであろうことが必至であったものということができるから、本件修正申告は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後になされたものであり、かつ、原告らは、やがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意して修正申告書を提出したものであるというべきである。

したがって、本件修正申告は、通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しないというべきである。

4  これに対し、原告らは、溝越統括官及び田中係官が原告らの居宅を訪れ、原告京夫に質問をしたことは、調査に該当するものではなく、仮に、これが調査に該当するとすれば、税理士ではない宅野事務員を立ち会わせた違法なものである旨主張する。

しかしながら、税務署職員による調査は、課税要件事実に関する資料を収集するために行われるものであり、相続税法六〇条一項が、税務署職員は、相続税に関する調査について必要があるときは、納税者等に質問することができる旨を定めていることに照らせば、納税者の居宅における質問が調査に当たることは明らかである。また、税務署職員による調査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、調査の必要があり、かつ、これと相手方の利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務署職員の合理的な裁量にゆだねられているものであるところ、宅野事務員は、原告らが相続税の申告書の作成を依頼した村木税理士の補助者として、右申告書の作成を担当したものであるから、同事務員の立会いを認めたことは右裁量の範囲内であり、何ら違法はないというべきである。

さらに、原告らは、被告が、修正申告のしょうようを拒否した幹夫及び和夫に対して更正や過少申告加算税賦課決定をしていないことに照らすと、本件修正申告は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後になされたものとはいえない旨主張する。

しかしながら、仮に、幹夫や和夫に対して過少申告加算税が賦課されなかったとしても、過少申告加算税が賦課されるか否かは、個々の相続人の申告に係る課税価格、相続税額、更正等により新たに納付すべきこととなった税額、調査の経緯等の個別的な事情によって異なるものであり、前記認定事実によれば、本件修正申告は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後になされたものというべきであるから、右の事情をもって、直ちに、本件各賦課決定が違法であるということはできない。

したがって、原告らの右主張は、いずれも失当である。

四  なお、原告らは、被告が、幹夫や和夫に対してなすべき指導をせずに、通常の納税者がなすべきことをした原告らに対してのみ、修正申告を強くしょうようして本件各賦課決定をしたのは不当である旨主張する。

確かに、甲一九号証によれば、原告らは、宅野事務員に対し、当初申告に先立ち、相続に係る資料をすべて提出して事実関係を説明し、当初申告においても、本件不動産の所有権の帰属について別件訴訟で係争中である旨を記載した文書を提出していること、原告らは、被告のしょうように応じて、直ちに修正申告をしたことが認められ、原告らには遵法精神に欠ける点はなかったことがうかがわれる。

しかしながら、幹夫や和夫に対する被告の対応をもって、直ちに本件各賦課決定が違法となるものではないことは前示のとおりであり、また、過少申告加算税は、当初から適法に申告、納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するために、申告すべき財産を過少に申告したという客観的な事実に基づいて課されるものであり、納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、これらの行為に基づき申告をしたときなどに賦課される重加算税(通則法六八条)や、期限内申告書の提出がなかったときに賦課される無申告加算税(同法六六条)とは別に定められた加算税であることに照らせば、原告らが、当初申告において、本来申告すべき本件不動産を相続税の課税財産に含めて申告しなかった以上、過少申告加算税を賦課されてもやむを得ないものというべきである。

五  よって、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別紙一

物件目録

1 所在 長野県北佐久郡軽井澤町大字軽井澤字中押出し

地番 四三二番三

地目 宅地

地積 一一八八・〇九平方メートル

2 所在 長野県北佐久郡軽井澤町大字軽井澤字野沢原

地番 一一九八番四

地目 宅地

地積 一三四二・六四平方メートル

3 所在 長野県北佐久郡軽井澤町大字軽井澤字中押出し四三二番地三

家屋番号 三六七番

種類 居宅

構造 木造板葺二階建

床面積 一階 九九・一七平方メートル

二階 三三・〇五平方メートル

別紙二 課税の経緯(過少申告加算税賦課決定処分)

〈省略〉

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